killing kiss

 神経を張り詰め、まるで殺し合いでもしているようだと誠一はふと思った。
 身を潜めて機を窺っているかのように息を殺し、一瞬の隙をつく緊張の時に似て鼓動が高鳴っている。死が傍に感じられるような、やけに周りの音以上に心臓の音が煩い。
 互いの息が近くなる。イーリーの慎重な、ゆっくりとした息遣いを、誠一は微かに頬に感じた。
 柔らかな感触が唇に触れた。僅かに唇を開くと、舌が滑り込んでくる。誠一もまた、自らの舌を絡めた。
 その行為は色事というよりはむしろ、儀式的なもののようだった。そして再び、殺し合いみたいだと、誠一はぼんやりと考える。
 深く唇を合わせた状態で、イーリーが軽く、噛むように口を動かした。カリ、と小さな音がしたのは気のせいだろうか。
 痛みはなかったが、誠一は不思議な感覚に捕らわれていた。
 このまま、
 それはあまりにも愚かしく、狂っていて、しかし甘美にも思われた。
 このまま、舌を噛み切り合ったなら、どうだろう。
 やはり殺し合いだ、と誠一は思い、内心で小さく笑った。そんな考えを思いつくあたり、自分はまともではないのだろうと再確認され、そしてその考えに対して自分は何を思ったのかと気付いて。
 でも、そうやって死ぬなら、それでもいいかもしれない。






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