if the world
heve ended now,

 冷えた空気に、ルーアはそっと目を覚ました。部屋はまだ薄暗く、ぼんやりと青い闇に室内の輪郭が見える。ふと、耳元に温かい呼吸を感じ、そういえば、と昨夜のことを思い出した。ゆっくりと身体を起こし、ちらりと隣で眠っているラッドを見遣る。ブランケットが少しずれたからか、僅かに身動ぎしたが、起きる気配はないようだった。
「ラッド」
 呟いて、一瞬、その額にキスを落とす。ラッドを起こさないように静かにベッドから抜け出し、すぐ傍に落ちていたラッドの脱ぎ捨てたシャツを拾うと、その細い腕を通した。
 レースカーテンのひかれた窓辺へ歩み寄ってから、もう一度ベッドで寝ているラッドに視線を向けた。しん、と静まり返った部屋に、微かにラッドの呼吸が聞こえる。ふっと微笑んで、ルーアは青を透かすレースカーテンを少しめくった。薄暗い闇に包まれた街は、昼間の喧騒が嘘のように、ただ眠っている。
 そこでルーアは、まるで今、世界には自分と、そしてラッドの2人だけしかいないように感じた。いつの間にか世界中の人々が、自分たちを除いて全員いなくなってしまったのではないのかと。*そうすれば、ラッドは、きっと、自分を殺してくれるはずだ。そう思って、ルーアは自然と笑みを零した。
「ルーア……?」
 ラッドの声に、思わずはっとして振り向いた。しかし、ラッドは変わらずベッドで眠っている。どうやら、寝言のようだった。ルーアはカーテンから手を離し、再びベッドへと戻った。ベッドに腰掛けると、身体を捻らせ、ラッドの頬へと手を伸ばす。
「ラッド……」
 好きよ、愛してる、とルーアは言葉には出さずに続けた。
 それから、触れるか触れないかという手つきで、何度か優しくラッドの頬を撫でていたが、不意に、
「……でも、死にたいくせに、矛盾してる」
 ラッドという男に殺されるために、自分は生きている、それだけだ。なのに、身体を重ねるということは、死とは逆の行為だ。そこに、一体何の意味があるのだろう。
 ルーアは、ラッドの頬に触れていた手を自分の首元へと移した。そこにはちょうど、昨夜の行為の痕が残されていた。そっと指でなぞると、まだなんとなく熱を持っているような気がした。
「いっそのこと、あのまま首を噛み千切ってしまえば良かったのに」
 その呟きは、けれど朝の闇に溶けていった。


......he surely kills me!







Jan. 2008


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