wine is like ...

「……でな、そいつがまた有り得ねえくらいにふざけた野郎でよ」
「うん」
「脅してくる割には、自分が死ぬってえのを、これっぽっちも考えてないだけじゃねえんだ、殺す覚悟も全ッ然持ってなかったんだからよ。笑えるよな」
「……うん」
 空になったラッドのグラスにワインを注ぎながら、ルーアが小さく相槌を打つ。
「……ま、そんなゆるゆる野郎のことなんざ、どうでもいいか」
 ラッドはぐい、とワインを一口飲んでから、ルーアの肩に腕を回した。そのままルーアの身体を引き寄せて、別の話を切り出す。
そういえば、ワインってのは確かあれだ、神だかの血らしいな。ってぇことは、俺らはそんな大層なものを飲んでるってことになんのかねぇ……」
「よく、わからないわ」
「大丈夫だ、俺もわかっちゃいねえ。まぁ、色は似てるけどな」
 笑いながら、ラッドはグラスに口をつけた。その血のような色をした液体を飲むラッドの様子を、ルーアはうっとりと見つめていた。
「……飲むか?」
 何度かグラスに口をつけた後、ラッドは気づいたようにルーアに訊ねた。しかし、その言葉にルーアは小さく首を横に振って断ると、ぽつりと続けた。
「すぐに眠くなっちゃう……」
「あー、そうだけどよ。……ま、いいけどな。せっかく上物らしいからよ」
「うん……」
 ラッドは空になったグラスを差し出し、ルーアが再びそれにワインを注いだ。赤い液体がグラスを満たしていく。一口ワインを口に含むと、それを吟味するように口内で転がしながら、ラッドは何か考えるように虚空を見つめていた。
「……なぁ、ルーア、ちょっとこっち向いてくんねえ?」
「え、」
 ラッドの声に、ぼんやりと俯いていたルーアは反射的に顔をこちらに向けその唇に、ラッドは自身の唇を重ねた。舌で半ば強引に口を割ると、少し苦く、生ぬるい液体を流し込んだ。
「ラッド……」
「うまいだろ?」
 口を離し、ニヤリとラッドは笑ってみせた。自分で飲まないのなら、無理矢理飲ますまでだ。からからと上機嫌に笑いながら、ラッドはグラスを傾けワインを喉の奥へと流し込んだ。
「狡いわ……弱いって、知ってるくせに」
 いつも以上に弱々しい声でルーアが呟いた。もう酔いが回ったのか、頬は紅潮し、瞳が揺れている。ちらり、とラッドを窺う仕草は、とても扇情的だった。
(ああ畜生、今すぐにでも殺してやりてえ……)
 意識せず、その白い首に手をかけそうになる。首筋を引き裂いて、ワインよりも紅いその液体を飲んでやろうか。ラッドはそんな衝動に駆られた。
「……ん、ルーア、どうした?」
 そんなことを思っていると、不意にルーアが寄りかかってきた。どうしたのかと覗き込んで見ると、小さく寝息のようなものを立てている。
「全くよぉ……ホントにすぐ寝ちまいやがった」
 思わず、ラッドは笑いを零した。
(寝てる時でさえ、殺したくなるくれえ可愛いんだからなぁ……)
 そう思いながらも、先ほどの歪んだ欲情はほとんど消え失せてしまっていた。ルーアを起こさないよう、グラスをテーブルに置いて器用にワインを注ぐ。そっとルーアの肩を抱くと、少しくすぐったそうに身動ぎしたが、起きる気配はなさそうだった。
「……ま、こういうのも、悪かねえな」
 呟いて、ラッドはグラスのワインを一気に飲み干すと、ルーアを優しく抱き寄せた。





ルーアさんがお酒弱いのは捏造です。
逆に兄貴よりも強いなら、それはそれで。

Feb. 2008


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