they wait for the rainbow over a shower.

 ひやりとした冷たい風に、思わず身体を震わせた。
「寒いな」
「うん。でも、とりあえず雨は凌げるから」
「そうだな」
 穣は頷いて、ぼんやりと目の前の少し先に流れる川を眺めた。普段はゆったりと流れている浅い川だが、今は急な雨とはいえ雨足が強いためか、水嵩も増し、流れも大分激しい。
 高架橋の下で、穣と未緒の二人はなんとか突然の雨を凌いでいた。
 ざわ、と少し強い風が吹き抜けていく。水の匂い。
 ぶるり、と未緒の細い肩が震えるのを見て、穣は厚い生地の大きめのパーカーを脱いだ。脱いだ途端の寒気に穣も身体を震わせたが、心配そうに見つめてくる未緒を抱き寄せ、一緒にパーカーに包まった。
「少しは、いいか」
「うん。ありがと、穣」
 パーカーの裾をぎゅっと握り締めて、未緒が微笑んだ。
 たまに二人が散歩のように歩くこのあたりは、表通りから少し離れた場所だった。住宅街というほど民家が密集しているわけでもなく、ひっそりと小さな公園のような広場と、今二人が雨宿りをしている橋が架けられている広い川がゆったりと流れていた。
 しかし、そんな場所だから二人が歩いていた道も比較的にひらけた場所を通っていて、建物はあっても民家は少し憚られたため、いきなりの雨を凌げる場所は他になかった。
「いつ止むかな」
 穣は橋の鉄骨の向こうに見える空模様を窺った。先ほどまではあんなに澄んだ青に陽が眩しかったのに、今ではどんよりと重く垂れ込めた灰色の雲がその光を遮っている。
 一方で、未緒は穣とは反対側の、遠くの空を見つめていた。
「向こうの方は、でも、晴れてそう」
「ん、じゃあ、もう少しかな」
「どっちにしても、待つしかないけど」
 ふふ、と未緒は、どこか愉しそうに呟いた。
 雨足は、けれど一向に弱まる気配がない。二人でパーカーに包っているとはいえ、それでも寒いものは寒い。
 でも、穣はなぜかとても愉しく思えた。こうして未緒と一緒に高架橋の下で雨宿りとしていることが。
 ざああ、と激しく降る雨は、世界に二人だけしかいないように感じられた。ただ確かなのは、そっと繋いでいる手から伝わる温かな感覚だけで。
「ね、穣」
「ん」
「虹、架かるかしら」
「どうだろうな」
「もう……」
 ふい、と未緒はずっと遠くの方の、明るくなっている空に目を向けた。
 穣はそんな未緒の横顔を見つめながら、虹が架かればいいな、と思った。